03 課題設定型営業 / 事実をつかむ
顧客の発言は、本当に「事実」なのか ― 現象と事実を仕分ける
「なんとなく成果が出ていない」は現象であって事実ではない。仮説は事実の上でしか検証できない。現象と事実を仕分ける技術と、その前提となる2つの姿勢。

「最近、なんとなく成果が出てないんです」「若手がすぐ辞めちゃって」「営業が弱いんですよね」。商談でこうした言葉を聞いたとき、営業はしばしばそれを課題として受け取り、解決する提案を組み立てはじめます。
しかし、これらはまだ課題ではありません。それどころか、事実ですらありません。
「現象」と「事実」を仕分けられるか
顧客の発言は、大きく2つに分かれます。
| 現象(顧客の主観・解釈) | 事実(客観的な出来事・数値) |
|---|---|
| 「最近、なんとなく成果が出てないんです」 | 「目標達成率が前年比◯%低下している」 |
| 「若手がすぐ辞めちゃって」 | 「入社1年以内の離職が◯名発生している」 |
| 「営業が弱いんですよね」 | 「新規商談化率が◯%から◯%に下がった」 |
左は感想・印象・評価が混じった言葉で、仮説の検証には使えません。右は誰が見ても同じ意味になります。仮説は、この事実の上でしか検証できません。
営業できる人は、現象を聞いた瞬間に「それは事実ですか、解釈ですか」と頭の中で仕分けています。
ヒアリングと、事実探索は違う
この仕分けを伴う情報収集を、単なるヒアリングと区別して考えます。
| ヒアリング | 事実探索 | |
|---|---|---|
| 目的 | 情報の聞き取り | 仮説を検証する客観的事実の把握 |
| 手段 | 質問すること | 問いかけ・情報提供・示唆・対話 |
| 起点 | 自社の商品・サービス | 顧客のビジネスに関する仮説 |
| 聞く範囲 | 商品に関する手前の議題 | 商品より上位の経営アジェンダ |
| 顧客の体感 | 尋問されている感覚 | キャッチボールしている感覚 |
違いは手段ではなく起点にあります。自社の商品から出発すれば、聞ける範囲は商品の手前で止まります。顧客のビジネスに関する仮説から出発すれば、商品より上位の議題まで届きます。
「提案力を上げたい」を分解してみる
典型的な発言で練習します。
「提案力を上げたい」は要望であり、その背後には現象があります。失注が増えた、商談が長期化している、特定のメンバーだけが数字を作っている、など。そして「提案力が低いからだ」というのは、顧客による解釈です。
ここが重要です。解釈は、顧客が持っている情報の範囲でなされた見立てであって、検証済みの結論ではありません。実際に事実を確認していくと、提案の質ではなく、商談の入り方や案件の選び方に原因があった、ということは珍しくありません。この場合、提案研修を導入しても数字は動きません。
解釈を事実に置き換えていく作業が、課題設定の実務です。
- 「提案力が低い」→ どの段階で落ちていますか。初回訪問後ですか、見積提示後ですか
- 「若手が育たない」→ 何をもって育っていないと判断されていますか
- 「設備が古い」→ 具体的にどの工程で、どんな支障が出ていますか
技術より先に必要な、2つの姿勢
ただし、これらの問いは踏み込んだものです。技術だけでは踏み込めません。前提として2つの姿勢が要ります。
- 伴走とは、極めて近い距離で一緒に走る姿勢。対等(50:50)でも、へりくだる(顧客100)でもない。対面でも上下でもなく、少しだけ顧客を前に置きながら、ほぼ真横を一緒に走る。だからこそ仮説をまっすぐぶつけられる
- 「あなたの役に立ちたい」という思いを超える技術はない。踏み込めるかどうかは質問スキルではなく、その前提が伝わっているかで決まる
顧客の発言を否定してはいけません。「それは課題ではありません」と返すのは、単に関係を悪くするだけです。受け止めたうえで、一段深く一緒に降りる。この姿勢が前提になります。
まとめ
顧客の発言の多くは現象であり、事実ではありません。そして仮説は、事実の上でしか検証できません。現象を聞いた瞬間に仕分ける習慣が、課題設定の入口です。
次回は、その事実を取りにいくために営業が持ち込むもの ― 仮説そのものを扱います。
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