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05 課題設定型営業 / 仮説を立てる

良い営業ほど、仮説を一つに絞らない

仮説は当てるためではなく、間違えるために立てる。ズレを顧客が訂正してくれた瞬間が、最も価値の高い事実になる。商談前・商談中・商談後の3つの仮説。

商談前に複数の資料を並べて準備する営業担当

商談前に仮説を立てましょう、というのはよく言われます。実際、準備なしに商談に入るより、はるかに良い結果になります。

ただし、仮説の持ち方には注意が必要です。ひとつの仮説を強く持って商談に入ると、その商談は「検証」ではなく「証明」になってしまいます。

仮説とは「検証可能な仮の答え」である

まず定義を揃えます。仮説とは、「この会社の本当の課題は◯◯ではないか」という、根拠を持った推測です。ここで大事なのは次の3点です。

  • 当たっている必要はない。検証できる形になっていることが重要
  • 仮説は「間違えるため」に立てる。価値は的中率ではなく、対話を深くする力にある。仮説がズレていれば顧客は訂正してくれる。その訂正こそが、最も価値の高い事実である
  • 仮説がない質問は、ただのアンケートになる。「お困りごとはありますか?」に仮説がなければ、顧客の答えを深掘りできない

一つの仮説を持つと、商談が「証明」になる

人は、自分の見立てを支持する情報を集めやすく、反する情報を軽く扱いやすい傾向があります。営業も例外ではありません。

「この会社の課題は人手不足だ」と強く思って商談に入ると、人手不足を示唆する発言だけが耳に残ります。それ以外の話は「今日の本題ではない」として流れていく。そして商談の最後に、顧客の口から人手不足という言葉を引き出して、仮説が当たったと解釈します。

これは検証ではなく誘導です。しかも、やっている本人には自覚がないことがほとんどです。

商談前・商談中・商談後、それぞれの仮説

仮説は1回立てて終わりではありません。3つのフェーズで性質が変わります。

  • 商談前:構造仮説 ―「この業界・この会社なら、◯◯が課題のはず」。公開情報と類似顧客から組み立てる。例:求人を長期掲載している会社 →「採用か定着に構造的な課題があるのでは」。精度より、検証できる形になっていることが大事
  • 商談中:対話仮説 ―「今の言い淀みは、本音が別にあるサインでは?」。相手の反応からリアルタイムに立てる。例:「まあ、それなりですね」→「これ以上触れてほしくない領域では?」。その場で検証の問いを設計し直す
  • 商談後:更新仮説 ―「今日の事実を踏まえると、真因は◯◯かもしれない」。例:「採用が課題」→ 検証の結果「育成の仕組み不在」に更新。次回商談の質問設計の起点になる

複数仮説を並べて商談に入る

商談前の構造仮説は、3つ程度を並走させます。たとえば受注が伸び悩んでいる製造業に対してなら、次のように並べます。

  1. 生産能力が上限に達していて、これ以上受けられない
  2. 能力に余裕はあるが、引き合いの獲得が細っている
  3. 受注はできているが、採算の取れない案件が混じっていて利益が出ていない

この3つは、打つべき手がまったく異なります。だからこそ、どれが実態に近いかを事実で見分ける必要があります。1つしか持っていなければ、この見分けは発生しません。

商談では、仮説を否定したり肯定したりするのではなく、事実がひとつ出るたびに重みを更新していく感覚で進めます。この進め方には副次的な効果もあります。複数の可能性を持っている状態だと、顧客の話を最後まで聞けるようになります。

仮説が全部外れたときが、いちばん価値がある

用意した3つがどれも当てはまらない、という場面があります。準備が無駄になったように感じますが、実際は逆です。

用意した仮説はいずれも、業界の一般的な状況から導いたものです。それが全部外れるということは、その会社に固有の事情があるということです。ここが課題設定のいちばん動く場面であり、同時に他社が入り込めていない領域でもあります。

仮説を用意する目的は、当てることではありません。外れたことに気づける状態を作ることです。

まとめ

仮説はひとつに絞らず、複数を並べて商談に入ります。証明ではなく重み付けとして扱うことで、誘導を避けながら課題の解像度を上げられます。そして外れた仮説ほど、価値の高い事実を連れてきます。

次回は、その重みを動かすための道具である「問い」を扱います。

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